皆さま
8月27日、「国際人権法の専門家が鋭く問う 講演とつどい」が開催され、清水奈々子さんの講演がありました。
「国際人権法の専門家が鋭く問う 講演とつどい」
2023年8月27日(日)13:30~16:00 開催
仙台市戦災復興記念館 4階研修室
講演:宇都宮大学国際学部教授・清水奈名子さん
「国際人権法と避難者の権利
―国内避難民特別報告者による勧告と原発避難者立退き訴訟」
共催:原発避難者の住宅追い出しを許さない会(許さない会)
原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)
協力:みやぎ脱原発・風の会
講演会の内容をまとめた記事を以下、紹介します。
【住宅追い出しを許さない仙台集会「講演とつどい」の報告(文責/事務局・山根)】
「福島県による原発避難者の強制的住宅追い出しは、国際人権法の権利の侵害にあたる」。宇都宮大学国際学部・清水奈名子教授は、8月27日に仙台市内で開かれた集会で行政による住宅立退き訴訟に言及した。
同訴訟は現在、福島地裁の判決を経て仙台高裁で「審理中」だが、7月10日に始まった第1回控訴審でいきなり結審という暴挙に出た。地裁も高裁も、国際法に全く触れないまま、行政の裁量権で避難者の権利を奪おうとしている。
主催したのは「避難者住宅追い出しを許さない会」(原発事故被害者団体連絡会が共催し、みやぎ脱原発・風の会が協力)。許さない会は、弁論再開を求める抗議要請ハガキに取り組み、緊急オンライン署名は1万6千を超えた。だが、「このままでは、原発事故に伴う住宅保障は個人の問題にされてしまう」と、闘いの広がりをめざす。
講演内容は以下の通り。
清水さんは「日本は、被ばくを避ける権利を保障する災害法制度自体が不在で、法の欠缺(けんけつ)状態にある。この場合、上位規範である国際人権法、憲法を参照する必要性がある」と基本的な見解を述べた。
昨秋、国連人権理事会の特別報告者セシリア・ヒネメスダマリーさんが来日調査し、この7月、報告書を公表。「報告書の第69段落で、『国内避難民がその生命や健康リスクにさらされる恐れのある場所に不本意ながら帰還することを予防する対策がとられないまま、公営住宅から国内避難民を立ち退かせることは、国内避難民等の権利の侵害であり、いくつかの事例では強制退去に相当すると考える』と述べているが、報告書の中で『権利の侵害』と記述したのは立退き訴訟に言及したこの箇所だけで、それほど重要視されている」と説明した。日本政府は「自主避難者の避難元は、恐れのある場所ではない」と言いかねないが、2018年3月のドイツ勧告「放射線の許容可能な線量限度を年間1ミリシーベルトに回復させることによって、…健康に対する権利を尊重すること」に同意しており、年間1ミリシーベルトを超える地域への帰還は強制されないことは確認されている。
特別報告者は、不偏不党性を担保する独立の専門家で加盟国の人権状況や世界的な人権侵害を調査し必要な勧告を行う役割を担っており、「国連の一機関の個人見解」と軽視する福島県の認識の誤りを批判した。また、「勧告に法的拘束力がない」とする国・県の言い訳に対しては、「個人の権利保障を国家に義務付ける国際人権法の特徴から、その実現には立法・行政・司法の協力が不可欠で、理事会と国家間の『対話と協力』を進めようと勧告を発する意味があり、拘束力がない(守っても守らなくてもいい)という性格の話ではない」と、勧告の意味、重さを訴えた。
日本政府は、2019年に福島からの避難者を国内避難民として受け止め、「国内避難民に関する指導原則(1998年)」を受け入れている。「2017年、オーストリアからの『自主避難者に対して住宅、金銭その他の生活援助』勧告、ポルトガルの『原発事故のすべての被災者に指導原則を適用すること』の勧告に、日本政府は『フォローアップすることに同意する』と回答している。これは回答の中で最も重く受け止めた表現だ」。さらに、「2020年には、外務省ホームページに指導原則を掲載し、各都道府県の避難者支援担当部署にも参考として周知し、管内市区町村へも周知するよう依頼している。そのことは福島県も知っているはずだ」と指摘。
清水さんは報告書から「立退きが、県外で暮らす世帯をさらに困窮化させることになる。避難を続けるため住宅へのアクセスができるよう制度化を」(第71段落)、「政府は、自らの意思で帰還できる、他の場所に再定住できるよう条件を整える第一義的な義務と責任を負っている」(第97段落)など支援継続を求める報告を説明した。
清水さんは、立退き訴訟で仙台高裁に「意見書」を提出したことを紹介した。「控訴人等(避難者)の主張は特殊でも例外でもなく、退去を求めることは保護されるべき移動と居住に関する自由権の侵害だ」と意見。「侵害されている権利の保障を実現することは、他の避難者だけでなく、帰還した人びと、被災地に残って生活している人びとへの支援の継続の必要性にもつながる」と意義を述べ、「被災者の権利保障を行政機関が迅速に実現できずにいるのであれば、その実現を促すことが司法に強く求められている」と公正な審理を求めた。
講演を機に、世界の人権の「常識」が通用しない日本にあって、国際人権法を根付かせる闘いを広げていかねばならない。
講演後の主な発言は次の通り。
立退き訴訟弁護団団長の大口昭彦弁護士は、強引な追い出し攻撃の背景に、「日本政府の執拗な独自核武装への願望がある。そこで今、早く福島原発事故をなかったことにし、原発推進へ政策転換することを画策している」と指摘。訴訟については「そもそも、家主(国)でもなく、訴える資格のない福島県がしゃしゃり出ているが、法的には無理があり乱用だ」と、批判。「福島地裁は国際人権法の適用の主張に答えず、証言採用を拒否し、住宅提供打ち切りに至る行政判断についてもまったくスルーして、行政の言いなりの判決を下した。仙台高裁も地裁判決をそのまま踏襲し、一発結審した。粘り強く、弁論再開を求めていく」と決意を述べた。
協力団体のみやぎ脱原発・風の会からは服部賢治さんが、宮城女川原発建設に反対した漁民、町民の闘いを綴った写真集を手に、「日本一激しい反対運動が起こった。原発は人間の基本的権利を奪う。人類の生存を賭けて、我々は漁場は死んでも守る、と必死に闘われた。安全宣言を鵜呑みにし、目先のお金に翻弄されて原発を建設してしまった中で、反対がいかに正しかったのか、目の当たりにしている」とあいさつ。「福島原発事故が起きてもこの国は住民の命や財産を尊び住民自治を育むことなく、独善的な国家になっている。その表れが、避難者を怠け者呼ばわりしたり故郷を捨てた裏切り者扱いして排除する冷たい社会だ」。ドイツの牧師マルティン・ニーメラーの「ナチスがわたしを連れ去ったとき、私のために声を上げる者は誰1人残っていなかった」との言葉を引用し、「この住宅追い出し訴訟を一人一人の人権が脅かされている問題として、自分ごととして取り組んでいこう」と、支援を訴えた。
共催団体のひだんれんから武藤類子代表があいさつした。ひだんれんは2015年から福島県と交渉しているが、「『被災者の最後の一人まで寄り添う』と言ってきた知事は会おうともせず、支援はどんどん狭めていった」と県政を批判。「放射能の長い長い影響に比してこんなにも早く避難者がなきものにされてしまうとは、理不尽極まりなく人権の無視だ。住宅問題は、一部のわがままな人間の問題とされ、社会問題、人権問題として扱われていない。被害県の福島県が被害者を訴えるという異常さを広く社会に訴え、当事者をしっかり支えていきたい」。
同じく仙台高裁で係争中の子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄さんは、「12月18日に判決が出される。福島地裁や仙台高裁は国に忖度した判決しか出さない。あきらめたら終わり。抗らい続ける。ダメなものはダメ、ならぬものはならぬと声を上げ続けていこう。原発事故が起こしたことは大きく広いので、みんなで情報共有し、ともに手をつなぎあってやっていこう」と元気に訴えた。
作家で住まいの人権裁判を支援する会の共同代表・渡辺一技さんは「この裁判はあべこべ裁判だ」と批判する。「福島地裁では小川裁判長が福島県の代理人のようにふるまい、高裁は即時結審した。こんなのは裁判ではない。ネット署名は1万6千というが、まだまだこの裁判を知らない人が多い。今、言葉が、汚染水が処理水と言われたり、汚染土を除染土と言ったり、どんどん壊されている。これは人の心が壊されていくことにつながる。最後まで支援しましょうね」
避難者集団裁判のかながわ訴訟原告団長・村田弘さんは「清水先生の意見書を読んだら地裁判決のようないい加減なことはできないと思ったが、高裁は一発で結審するという信じられない結末だった。(原発差し止め訴訟の)樋口元裁判長の映画は神奈川県下で広がっている。「国民を見くびるな」という声を上げることで裁判官を励ますことができる、と言われていた。(裁判官がよい判決をかけるよう)訴えていこう」と呼びかけた。
主催者から、許さない会代表の熊本美彌子さんがお礼と当面の行動を提起した。一つは、「仙台高裁の即日結審に抗議し弁論の再開を求める」声明への賛同を募るもの。声明文は住宅追い出し裁判の当事者、弁護団、許さない会の3者、住まいの権利裁判の原告、弁護団、支援する会の3者合同で発しているが、これを共通の認識に広げていこうと賛同団体を募る。一つは、現在進行中の仙台高裁あての要請はがきと緊急オンライン署名を9月下旬まで続行することを提起した。
以上
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